狢の妖怪談義

第八回 夫婦狢

わしら狸狢の類は人間よりも夫婦の絆が強うてな
昔、知り合いが、その旦那から聞いた話や

その旦那がまだ学生の頃、単車、オフロード車やな、
それに乗って山道を走っとった
峠を越えて道を下っとると、道端にじーさんがしゃがみこんどる
ちょっと、尋常じゃなかったんで、その旦那は単車を止めて
話しかけてみた
じーさんは真っ青な顔して腹を押さえとる
じーさんが言うには峠をちょっと下りた辺りで、
乗っとった軽トラックが道を外して木にぶつかった
一緒に乗っとったばーさんは気を失のうて、躰を挟まれて
車から出すに出せんと
さて、そんな軽トラックがあったかなと旦那は思うたが、
じーさんも怪我しとるようやし、ばーさんも早いとこなんとかせんと
あかんと思うて、旦那は峠に引き返したんや
今やったら、携帯で連絡するところやろうけど、
当時はそんなもん、あらへん
せめて、他に通りがかる車か単車がないかと思いつつ
峠に近づいた
じーさんが言うたあたりには軽トラックどころか自転車もない
峠の向こう側かも知れんと行ってみたが、なんもない
道から大きく外れて落ちたかとも思うて、戻りは注意深く
道の両側を見ていった
なんか黒いもんが道端の草むらの影に隠れとる
旦那は単車を止めて近寄った
狸の死体や。木の根っこやらなんやらややこしいところに
挟まっとる。躰があらぬ曲がり方しとる
ちょうどじーさんが事故ったっちゅう場所なんが気になったが、
じーさんそのものも気になっとったんで、狸はほっといて
旦那はじーさんの方に道の両側を見ながら戻った
じーさんはおらんかった
代わりにじーさんがしゃがみこんどったあたりに
狸が倒れとった
腹から腸がはみ出とった。息はもうしとらんかったが、
躰はまだ温かかった
旦那はじーさん狸を抱いてばーさん狸のところに戻った
ばーさん狸をややこしいところから取り出して
じーさん狸といっしょに埋めてやった

どっとはらえ

注釈:狢さんが「【百鬼】妖怪達の集うスレ【夜行】」スレにうぷされたものです
   さいしょ、夫婦狸にしてたんですが、狸は化けん。化けるのは狢や
   あんたの旦那が知らんかっただけや、と主張なさるので、夫婦狢にしました
   ってことは、妖怪話じゃないですね

第七回 妖怪「ぬらりひょん」に還る
第九回 妖怪「赤い狐」に逝く

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狢 屋 敷に逝く さぁ、妖かしの世界へ逝こうか
前世物語に逝く 心が健全なもんはやめとった方がええ

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